【LoopGate導入事例】光地区消防組合消防本部がドローン×LoopGateで築く次世代災害対応──上空150メートルの「眼」が、指揮を変えた

光地区消防組合消防本部について

管轄区域: 光市、田布施町、周南市の一部(熊毛地域)
業務内容: 消防・救急・救助業務、火災予防活動、防火管理講習・危険物取扱い講習・応急手当講習の実施、119番通報対応
導入製品: リモートコミュニケーションシステム「LoopGate」(拠点間会議用4台、ドローン映像伝送用2台) 
Webサイト: https://shojin-enter-labo.work/

ドローン空撮映像をリアルタイムで指揮室へ。消防の現場判断を根底から変えるシステムが山口県の消防本部で始動。

山口県光市──瀬戸内海に面した穏やかな臨海工業都市だが、ひとたび有事が起きれば状況は一変する。石油化学コンビナートが立ち並ぶ臨海部、急傾斜地に点在する住宅、山間部を流れる島田川の流域。光地区消防組合消防本部は光市・田布施町・周南市(熊毛地域)の3市町を管轄し、多様な災害リスクと日々向き合っている。

その消防本部が2025年、ドローンの空撮映像をリアルタイムで本部指揮室に伝送するシステムを導入した。核となるのは、リモートコミュニケーションシステム「LoopGate」。元々は拠点間のテレビ会議用途で導入していたこの専用機を、ドローンの映像伝送端末として転用するという発想が、消防の現場判断のあり方を根底から変えようとしている。

光地区消防組合消防本部が抱えていた課題

「火災や有事の際にすぐに確認できる」── 150メートル上空からの現場俯瞰

2025年4月10日、午後2時半。光地区消防本部の駐車場で、一機のドローンがプロペラ音を響かせながら上昇を始めた。

地上30メートル、50メートル、100メートル──。航空法で定められた上限の150メートルに達したドローンのカメラが、光地区の全景を捉える。臨海部のコンビナート、市街地、山間部の集落。消防本部が守るべきすべてのエリアが、一つの画角に収まった。

その映像は、数百メートル離れた本部指揮室の65型ディスプレイにリアルタイムで映し出されていた。画面越しに、ドローン操縦者と指揮室の隊員が音声でやり取りする。「もう少し南に寄れるか」「了解、旋回します」。双方向の映像音声通信が、上空と地上を一本の線で結んでいた。

このデモンストレーションを見守っていたのは、警防課課長補佐兼警防係長の鯨吉優消防司令をはじめとする消防本部の複数の職員、そして消防庁から視察に訪れた関係者だった。鯨吉消防司令はモニターを見つめながら、こう語った。

「本部から光地区全域を見渡すことができる。火災や有事の際にすぐに確認できるので、現場と本部の両方にあるといいね」

消防庁の関係者からも高い評価を受けたこのデモは、光地区消防組合が長年にわたって模索してきた「災害現場の俯瞰的把握」という課題に、明確な解答を示した瞬間だった。

消防の指揮はなぜ「上空からの眼」を必要とするのか

火災の現場で、指揮隊長は限られた情報をもとに重大な判断を下し続けなければならない。延焼方向の予測、住民の避難経路の確保、増援部隊の投入判断。しかし、地上からの視界には限界がある。建物の陰に隠れた火点、風向きによって刻一刻と変化する煙の流れ、隣接する危険物施設との距離感──これらは地上にいるだけでは正確に把握できない。

風水害の場合はさらに深刻だ。河川の増水、土砂崩れの範囲、道路の寸断状況。被害の全体像を掴むには、文字通り「空から見る」しかない。しかし従来、航空隊を持たない多くの基礎自治体の消防にとって、それは手の届かない能力だった。

鯨吉消防司令は、ドローンとLoopGateの組み合わせが生む運用上のメリットをこう描いていた。

「有事の際、高台にある消防本部に連絡が入ると、本部裏手にある駐車場で即ドローンを上空150メートルへ上げることで、担当地区全域をドローンの映像で確認することができる。ドローンカメラのズーム機能で、火災などは炎や煙が遠隔から見えるので、すぐに指示が出せる」

消防本部は光市内の高台に位置しており、本部裏手の駐車場からドローンを飛ばせば、管轄地区のかなりの範囲を俯瞰できる地理的優位性がある。必要なのは、ドローンが捉えた映像を安定的にリアルタイムで本部に届ける「伝送の仕組み」だった。

LoopGateは光地区消防組合消防本部の課題をどのように解決したか

消防が映像伝送に求める4つの要件

消防組織が映像伝送システムに求める要件は、一般企業とは根本的に異なる。光地区消防組合がLoopGateを選んだ理由は、以下の4点に集約される。

① 有事でも途切れない「専用機」の安定性

一般的なWeb会議ツールはPCベースであり、OS更新やセキュリティアラートで会議が中断するリスクがある。災害現場との通信でそれは許されない。LoopGateは専用機として動作するため、PCの不安定要素から完全に切り離されている。電源を入れればすぐに使える──その単純さが、一分一秒を争う消防の現場で決定的な差になる。

② 自治体のセキュリティ要件をクリアできる導入のしやすさ

庁内ネットワークにPCベースのWeb会議システムを接続するには、情報システム部門のセキュリティ審査を通す必要があり、そのハードルは極めて高い。LoopGateは専用端末であるがゆえに、PCとは別枠として扱うことが可能で、導入のハードルを大幅に下げることができた。

③ 誰でも迷わず使える操作性

災害対応の最中に複雑なPC操作を要求するシステムは実用に耐えない。LoopGateはリモコン一つでワンタッチ接続が可能であり、ITスキルに関係なく、どの隊員でも操作できる。電話をかけるのと同じ感覚で映像通信を開始できるこの簡便さが、消防の現場で決定的な意味を持つ。

④ ドローン映像をそのまま取り込める拡張性

LoopGateにはUSB/HDMI外部入力でドローンの映像を取り込む機能がある。PC入力ユニットを介して、ドローンのコントローラーから出力されるHDMI映像信号をLoopGateに入力し、そのままリアルタイムで遠隔地に伝送できる。テレビ会議用に設計された専用機が、ドローン映像の伝送装置としてそのまま機能する──この柔軟な拡張性こそが、光地区消防組合のシステム構想を技術的に支えた鍵だった。

「ケースを開けた状態で、機器を出さずにそのまま使う」── 現場展開を想定した機器構成

システムの設計思想は明快だった。本部の指揮室に受信側の大型ディスプレイを置き、災害現場にはドローンとともに送信側の機器一式を持ち出す。鯨吉消防司令が現場での運用を構想し、その要件は具体的かつ実践的だった。

「ケースを現場で開けた状態で、収納機器はできるだけケースから出さずに使う想定だ。特注のケース──屋外用の防塵防滴仕様で、ポケットWi-Fiも収納する──とポータブル電源を現場へ消防隊員が持参し、消防本部との連携を行う」

現場側の機器はすべて一つのケースに収まるよう設計されている。LoopGate本体、PC入力ユニット、スピーカーマイク、モバイルディスプレイ──ケースの蓋の内側にモニターを固定し、蓋を開けた状態でそのまま運用する。消防隊員がこのケースとポータブル電源を災害現場に持参し、ポケットWi-Fiで通信回線を確保すれば、その場が即席の「映像伝送指揮所」となる。

本部と現場の隊員間の音声通信にも、現場の状況に応じた切り替え運用が想定されている。

「現場に隊員が一人で対応する場合は無線ヘッドセットで本部と会話し、複数名での対応時にはスピーカーマイクに切り替えて全員で情報を共有する。切替の手順書もケース内に収納しておくこと。切り替え作業が簡単であること」

本部受信側には65型の大型ディスプレイモニターがキャスター付きスタンドに設置されており、指揮室内での配置を柔軟に変えられる。ドローンの空撮映像がフルHD画質でこのモニターに映し出され、指揮官は画面を見ながら現場に音声で指示を出す。

この仕組みが実現する運用シナリオはこうだ──。有事の際、高台にある消防本部に第一報が入る。隊員がドローンとLoopGateのケースを持って本部裏手の駐車場に急行し、ドローンを上空150メートルへ上げる。数十秒後、指揮室のモニターに管轄地区全域の俯瞰映像が映し出される。ズームすれば、数キロ先の火災現場の炎も煙の流れも視認できる。指揮官は消防車が現場に到着するよりも早く、延焼方向を予測し、部隊の展開方針を決定する。

同時に、現場へ向かった消防隊にもケース一式を持たせておけば、現場の地上映像と上空のドローン映像を本部で同時に確認することも可能になる。

「毎日これが無いと仕事にならない」── 3年間の実績が築いた信頼

実は光地区消防組合は、2022年からLoopGateをテレビ会議システムとして運用していた。本部・中央消防署・東出張所・北出張所の4拠点をLoopGateで接続し、日常の会議や連絡に活用している。

2025年4月のデモンストレーション当日、訪問したスタッフが既設のLoopGateも見せてもらった際、職員からこんな言葉が返ってきた。

「毎日これが無いと仕事にならない」

── 光地区消防組合消防本部 職員

導入から3年、LoopGateは消防本部の日常業務に完全に定着し、なくてはならないインフラとなっていた。その実績と信頼があったからこそ、ドローン映像伝送という新たな用途への展開が自然な流れで実現した。

今後の展望

「ドローン映像と現場映像を2画面で同時に表示できないか」── 止まらない進化

ドローン映像伝送システムの導入効果が確認された光地区消防組合では、早くも次の展開が動き出している。2026年2月、鯨吉消防司令から新たな相談が寄せられた。

「本部側に表示されている現場の映像画面を、他の場所でも表示させることは可能か。現場側の映像について、現在はドローン映像と現場映像を切り替えて本部に表示しているが、ドローン映像と現場映像の2画面を同時に本部で表示することは可能か」

管轄エリア内の田布施出張所にもLoopGate端末を追加配備し、本部と同じ映像をリアルタイムで共有したい。そして空撮映像と地上映像を切り替えるのではなく、2画面で同時に映し出すことで、上空と地上の双方から災害状況を立体的に把握したい──。導入から半年、現場での運用を重ねたからこそ生まれた、極めて具体的かつ実践的な要望だった。

LoopGateの「ルーム機能」(クラウド接続)を活用すれば、現在の本部とドローンの1対1通信に加えて、同時接続数無制限・時間無制限の多地点通信が可能となる。既存のレギュラープランに標準付帯しているこの機能により、大きな追加コストなく多地点展開が実現できる見込みだ。

この構想が完成すれば、災害発生時のオペレーションはさらに進化する。本部指揮室のモニターには上空からの俯瞰映像と地上からの現場映像が並び、田布施出張所の指揮官も同じ映像をリアルタイムで共有しながら、部隊運用の判断を下す。「見えない現場」で手探りの指揮を強いられてきた従来の災害対応から、「映像による情報共有」を前提とした組織的な指揮体制への転換。それは、一つのテレビ会議端末から始まった歩みが、消防の指揮そのものを変える到達点である。

「毎日これが無いと仕事にならない」、その先へ

光地区消防組合消防本部のLoopGate活用は、消防組織におけるDXの一つの理想形を示している。

始まりは、拠点間の会議効率化という素朴な課題だった。しかし3年間の安定運用を経て「毎日これが無いと仕事にならない」と語られるまでに定着した製品への信頼が、ドローン映像伝送という全く新しい領域への挑戦を可能にした。さらにその成功が、「2画面同時表示」「多地点同時中継」という次の構想を生んでいる。段階を追うごとにシステムの価値は掛け算で高まり、消防の災害対応能力そのものを押し上げている。

注目すべきは、この進化がLoopGateという単一の製品プラットフォーム上で実現していることだ。会議、ドローン中継、多地点展開──用途は異なれども、核となるのは常に同じ専用端末である。使い慣れた操作体系がそのまま活きるため、新たなシステムを導入するたびに発生する組織内の習熟コストが最小限に抑えられる。

消防の現場で本当に必要とされるのは、最先端の技術そのものではない。有事に確実に動き、誰でも迷わず操作でき、現場の判断を一秒でも早く支援する──その愚直な信頼性だ。光地区消防組合消防本部とLoopGateの歩みは、テクノロジーが現場の信頼を得るためには何が必要かを、静かに、しかし力強く物語っている。