
水害や地震など複合災害への備えが求められる中、自治体には有事でも意思決定を止めない体制が求められています。墨田区では、複数の通信手段を役割分担させる設計により、単一通信に依存しない冗長設計を実現。クラウド型通信と切り分けた閉域網対応LoopGateを組み込むことで、平時の運用と地続きで有事にも機能するBCP(事業継続計画)連携体制を構築しています。
墨田区について
墨田区は東京都東部に位置し、隅田川や荒川に囲まれたゼロメートル地帯を含む都市です。区内には本庁舎のほか、保健・福祉・危機管理などの機能を担う拠点が点在しており、新保健センターの整備など分庁舎体制も進んでいます。災害対応において重要な役割を担う部署が物理的に離れて配置されている点は、都市構造上の特性の一つです。
災害時には地震や水害など複合的なリスクを前提とした危機管理体制の整備が不可欠であり、発生後も行政機能や意思決定を停止させることはできません。平常時にはWeb会議を活用した拠点間連携も行われていますが、有事の際にも機能するBCP(事業継続計画)連携体制を構築し、運用を進めています。
墨田区が抱えていた課題
災害など有事の際に拠点が分断され、連携や意思決定が継続できないリスク
本庁舎と新保健センターをはじめ、墨田区では災害対応に重要な機能を担う部署が複数拠点に分かれています。浸水や交通遮断が発生した場合、職員の参集や拠点間の移動が不可能になるリスクがあります。
その際に課題となるのは、情報共有や意思決定が滞ることです。例えば、避難所の開設判断、避難者数の集約、要配慮者の情報共有、医療・保健対応の優先順位付け、支援物資の配分方針など、初動段階で求められる重要な判断は多岐にわたります。
拠点が分断される状況でこれらの判断が遅れれば、市民支援に影響が及びます。連携を維持したまま意思決定を継続できる体制が求められていました。
有事に顕在化する通信リスクと単一構成の限界
平常時にはWeb会議を活用し、拠点間の連携を行っています。しかし、災害発生時には通信輻輳や停電、回線設備の被災などにより、インターネット回線が不安定化するリスクがあります。都市部ではアクセス集中による遅延や接続障害も想定されます。
単一の通信手段に依存している場合、その回線が機能しなければ、避難所開設の判断や避難者数の集約、医療・保健対応の優先順位付けといった初動判断に影響が及びます。
平時に機能する仕組みが、有事にもそのまま機能するとは限りません。BCPの観点から、状況に応じて通信手段を選択できる構成が必要でした。
災害激甚化が突きつける「つながり続けること」の重要性
近年、自然災害は激甚化・頻発化の傾向にあります。国土交通省が2021年に公表した調査によると、過去10年間で97%の市町村が水害を経験したとされています。もはや災害は「発生するかどうか」ではなく、「いつ発生してもおかしくない」前提で備えるべき事象となっています。
大規模災害時には電話やインターネット回線の輻輳により、行政内部の連絡が取りづらくなるケースも確認されています。住民対応や避難所運営、物資調整などを担う自治体にとって、つながり続けることは単なる利便性の問題ではなく、行政機能の継続そのものに直結しかねないため、BCPの観点では「通信が使えること」ではなく、「通信が途切れない構成を持つこと」が重視されるようになっています。
閉域網対応LoopGateが墨田区をどのようにサポートしているか
BCP要件に合致する閉域網構成としての選定
墨田区では、災害時にも確実に稼働する通信経路を確保することを前提に構成を検討しました。インターネット回線のみに依存しない通信手段を持つことが必須要件でした。その中で、閉域網内で安定して稼働できる構成としてリモート専用端末であるLoopGateが選択されました。
専用端末を選択した理由として、
- ボタンを押せばすぐつながる操作性
- 占有型回線による安定性
- ITリテラシーに左右されない運用
- 資料や地図、高所カメラ映像をリアルタイムで共有できる点
が挙げられます。
専用端末として即時接続が可能であり、操作の簡便さを備えている点において、BCP観点で整理された要件に合致していました。
本庁舎と新保健センターを結ぶ閉域網常時接続
現在は、本庁舎と新保健センターを閉域網で接続し、常時接続環境を構築しています。インターネットを経由しない通信経路を持つことで、外部回線の輻輳や不安定化の影響を受けにくい構成としています。
物理的に拠点が分断された状況でも、映像・音声によるリアルタイムの連携が可能です。
災害時には、接続できることだけでなく、すぐに議論を開始できることが重要です。LoopGateはワンタッチで接続できる専用端末として設置されており、ログインやURL共有を必要としません。
非常時に操作で迷わない設計とすることで、判断開始までの時間を短縮する環境が整えられています。
クラウドと閉域網を役割分担した冗長構成
墨田区では、平常時の業務においてクラウド型のWeb会議も活用しています。利便性や機動性に優れ、日常業務を支える手段の一つです。
そのうえで、災害時には閉域網内で稼働するLoopGateを選択できる体制とすることで、通信手段を一つに限定しない構成を実現しました。クラウドと閉域網を用途に応じて使い分ける設計が、単一通信に依存しない冗長構成を支えています。

閉域網対応LoopGateが墨田区にもたらした変化
訓練と日常利用により“使われるBCP”へ
年2回実施される水害・地震対応訓練では、本庁舎に設置された災害対策本部と新保健センターを接続し、遠隔で議論を行う運用が定着しています。参加職員からは「まるで同じ部屋にいるように話せる」といった声も聞かれています。
また、週1回の手話サークル活動でも同様に拠点間を接続しており、平常時から継続的に活用されています。日常的に使用されることで、非常時に特別な準備や操作を必要としない体制が保たれています。
閉域網対応LoopGateは、通信の冗長構成を実装する仕組みとして導入されました。現在は訓練や日常活動の中で使われることで、有事にも機能するBCP連携体制の一部として位置づけられています。
”災害時に確実につながる仕組みがあるかどうか。
その一点が、命を守る自治体かどうかの分かれ目になると思っています。”
有事に通信が確保されていることは、単なる利便性の問題ではありません。通信の確実性こそが災害対応の基盤であるという認識が明確になりました。
また、LoopGateを導入し用途に合わせて複数の通信経路を確保することで、「どれか一つが止まっても、別の通信経路で連絡を確保できる」冗長性が担保され、災害時の業務継続性が高められています。
山口氏、工藤氏
墨田区 防災課
閉域網対応LoopGateならではの価値
閉域網対応LoopGateの価値は、通信手段を一つに統一するのではなく、用途と状況に応じて役割を分けて持てる設計を実装できる点にあります。クラウド型のWeb会議と切り分けて構成することで、単一通信に依存しない冗長設計を実現できることが特徴です。
さらに、既存の閉域網環境に組み込める構成であることも価値の一つです。インターネット依存とは別の通信経路を確保しつつ、既存インフラとの整合を図れる点が、BCP観点での設計に適しています。

墨田区のBCP対策の取り組みと今後の展望
墨田区では、水害・地震といった複合災害を前提に、防災インフラを“平面”ではなく“立体的”に整備しています。区の象徴である東京スカイツリーは、その中心的な役割を担っています。地上約260メートル地点に設置された高所防災カメラにより、区内の広範囲を俯瞰しながら火災・浸水・交通障害などの状況を把握し、その映像は災害対策本部の初動判断に活用されています。
スカイツリー内には「危機管理ベース」と呼ばれるバックアップ拠点も整備されており、庁舎が被災した場合でも行政機能を一定程度維持できる体制が構築されています。さらに、区内各所には「土のうステーション」が設置され、住民が自ら浸水対策を行える仕組みも運用されています。公助だけでなく、自助を支える設計もBCPの一部として位置づけられています。
通信面においても、多重化を前提とした体制が整えられています。スカイツリー経由の光回線による映像伝送、NTT東日本のフレッツ・プライオを用いた閉域ネットワーク、東京都から配備されたStarlink端末など、用途に応じて複数の通信経路を確保しています。
どれか一つが止まっても、別の通信経路で連絡を確保できる
この多重通信の考え方が、墨田区のBCP体制を支えています。






