本記事の要約
空き交番(警察官の不在が常態化している交番)への対策として、ビデオ通話システムが導入されています。本記事では、警視庁の「地域安全センター」と足立区の「六町駅前安全安心ステーション ろくまる」の導入事例をもとに、交番向けビデオ通話システムに求められる技術要件(接続方式、ネットワーク構成、機器の堅牢性)と、警察署側の運用設計(不在時の切り替え、交番相談員との役割分担、夜間対応フロー)を整理しています。
空き交番の現状と背景
警察白書 平成18年度版によると、空き交番とは、地域警察官の不在が常態化している交番を指します。地域パトロールや事件対応による一時的な離席に加え、全国的な警察官の人員不足が重なり、交番が無人になるケースが各地で発生しています。
交番は各地域の住民にとって最も身近な警察施設です。事件や事故の届出、落とし物の受付、道案内など日常的な相談窓口として機能しています。一方で、交番に配置される警察官の数には限りがあり、パトロールや事件対応で外出すると交番は無人になります。
この「不在の常態化」が空き交番の問題です。交番が閉まっている状態が続くと、住民が緊急時に駆け込んでも対応を受けられません。また、交番に警察官がいること自体が犯罪の抑止力になっているため、無人化は地域の体感治安にも影響します。
交番が無人になる理由は主に3つあります。
1つ目は、パトロールや事件対応への出動です。交番勤務の警察官は、管轄地域の巡回や事件・事故の現場対応に出向く必要があり、その間は交番を離れます。これは交番業務の性質上避けられません。
2つ目は、警察官の人員不足です。全国的に警察官の確保が課題となっており、1つの交番に常時複数名を配置できる体制を維持することが難しくなっています。
3つ目は、管轄エリアの広さです。都市部では事件対応が集中し、地方では1人の警察官が広い範囲をカバーしなければなりません。いずれの場合も、交番に常時在席することが物理的に困難な状況が生まれています。
空き交番対策としてのビデオ通話導入事例
空き交番の問題に対し、ビデオ通話システムを交番に設置して管轄の警察署と接続する取り組みが行われています。以下に、実際に運用されている2つの事例を紹介します。
警視庁「地域安全センター」|受話器を取ると自動で管轄署に接続
東京都内の警視庁管轄では、空き交番を「地域安全センター」という施設に転換しています。警察官OBが勤務する体制に再編した上で、警察官不在時には管轄の警察署と住民がビデオ通話でつながるテレビ電話を設置しました。
システムの特徴:
- 来訪者が受話器を持ち上げると、自動的に管轄の警察署へ接続される
- 音声はハンズフリーに対応しており、スピーカーからも出力される
- 緊急時に駆け込んだ方が慌てた状態でも通話を開始できる設計になっている
運用の仕組み:
警察官がパトロールに出る際や、夜間に交番を離れる際にテレビ電話をセットします。セット後は、来訪者が受話器を取るだけで警察署の担当者と顔を見ながら話ができます。つまり、交番が無人であっても住民は警察署と直接対話でき、警察署側で交番の不在時間帯をカバーする運用です。
足立区「六町駅前安全安心ステーション ろくまる」|自治体×警察のテレビ電話連携
足立区には「六町駅前安全安心ステーション ろくまる」という、自治体が運営する防犯施設があります。ここでは地元の綾瀬警察署と連携し、施設の1階受付にボタン1つで警察署に直通するテレビ電話を設置しています。
施設の運営体制:
- 在籍する隊員は全員が元警察官
- 平日だけでなく土日祝日も開所している
- 夜間の閉所時にもテレビ電話は利用可能
この事例が特徴的な点:
自治体が運営する防犯施設と警察署をテレビ電話で接続するのは全国初の取り組みです。この連携により、警察官不在時でも住民が直接警察署に相談できる仕組みになっています。日中は元警察官の隊員が対面で対応し、夜間は無人でもテレビ電話で警察署につながるという、有人対応と無人対応を組み合わせた運用です。
導入事例から読み取れる共通要件
2つの事例に共通するのは、来訪者が「迷わず接続できること」を最優先に設計されている点です。受話器を取る、ボタンを押す、のいずれもワンアクションで管轄の警察署につながります。
また、いずれの事例も既存のネットワーク環境を活用して導入されており、交番や施設に大規模な工事を行わずにシステムを稼働させています。
この領域の案件を検討する上では、「操作の簡便さ」「ネットワークの閉域性への対応」「24時間稼働の安定性」の3つが提案時の重要な評価軸になります。
交番や自治体の窓口向けに設計されたリモート窓口システムの詳細資料をご用意しています。閉域網対応やワンタッチ接続など、導入検討に必要な仕様情報をまとめたパンフレットは以下からダウンロードいただけます。
なぜWeb会議ツールではなく専用システムが必要なのか
交番へのビデオ通話導入を検討する際、「ZoomやTeamsで対応できないか」という議論は当然出てきます。しかし、交番という用途にはWeb会議ツールでは対応できない固有の要件があります。
Zoom・Teamsでは対応できない交番特有の要件
交番のビデオ通話に求められる条件と、Web会議ツールの標準的な仕様を照らし合わせると、以下の5点で適合しません。
① 閉域網・LGWAN非対応
ZoomやTeamsはインターネット接続を前提としたクラウドサービスです。警察組織は独自の閉域ネットワークを運用しているケースが多く、インターネットを経由するWeb会議ツールはそもそもネットワーク的に接続できない場合があります。
② ワンタッチ接続ができない
Web会議ツールを使うには、ミーティングIDの入力やアプリの起動など、複数の操作手順が必要です。交番に駆け込んでくる住民は緊急性の高い状況にある場合も多く、受話器を取る・ボタンを押すだけで接続できる簡便さが必須です。
③ 常時起動・自動接続に非対応
「受話器を持ち上げると自動的に管轄署につながる」という運用は、Web会議ツールの標準機能では実現できません。専用システムでは、特定の動作をトリガーにして接続先へ自動発信する仕組みが組み込まれています。
④ アカウント管理の問題
Web会議ツールはホスト側・参加者側のいずれもアカウントが必要になるケースがあります。交番の来訪者にアカウント登録を求めることは現実的ではありません。
⑤ 長時間無人運用を想定していない
Web会議ツールはPCやタブレットが起動している状態を前提としています。交番のように無人で長時間稼働し続ける環境での利用は設計上想定されておらず、OSのアップデートやアプリのクラッシュで通話できなくなるリスクがあります。
専用システムとWeb会議ツールの比較表
| 比較項目 | Web会議ツール(Zoom・Teams等) | 交番向け専用システム |
|---|---|---|
| 接続方法 | ミーティングID入力・アプリ起動 | 受話器を取る/ボタンを押すだけ |
| 閉域網・LGWAN対応 | 非対応(インターネット接続前提) | 対応可能 |
| アカウント | 必要 | 不要 |
| 常時起動・自動接続 | 標準機能では非対応 | 対応(受話器持ち上げで自動接続等) |
| 無人環境での長時間稼働 | 想定外 | 対応 |
| 緊急時の操作性 | 複数ステップが必要 | ワンアクションで接続 |
交番向けビデオ通話システムに求められる技術要件
交番にビデオ通話を導入する場合、一般的なオフィス向けのテレビ会議システムとは異なる要件があります。導入時の重要な検討項目は、緊急時に来訪した住民が迷わず使える接続方式、警察組織の閉域ネットワークへの対応、屋外に面した設置環境に耐える機器、そして通話品質の安定性の4点です。
接続方式|受話器・ボタン・人感センサーの選定
交番向けビデオ通話の接続方式は、大きく3つに分けられます。
受話器方式: 受話器を持ち上げると自動的に管轄の警察署へ発信されます。電話の操作と同じ動作で接続できるため、高齢の方や子どもでも迷わず使えます。警視庁の地域安全センターで採用されている方式です。
ボタン方式: 専用のボタンを押すと接続が開始されます。足立区の「ろくまる」ではこの方式が採用されています。ボタンの存在がシステムの利用を促す目印にもなります。
人感センサー方式: 交番に来訪者が入ると人感センサーが検知し、自動的に警察署へ通知を送ります。来訪者が機器を操作する必要がない一方で、通りすがりの人にも反応してしまうリスクがあり、運用ルールの設計が必要です。
交番では「慌てて駆け込んでくる人でも確実に接続できる」ことが最優先であり、受話器方式やボタン方式を採用している事例が多くなっています。
ネットワーク構成|閉域網・LGWAN対応の必要性
警察組織は、一般のインターネットから分離された閉域ネットワークを運用しているケースが多くあります。このため、クラウド型のWeb会議ツールでは警察側のネットワークに接続できない場合があります。
導入時に検討すべきネットワーク構成パターンは以下の3つです。
閉域網直結型: 交番と警察署をVPNや専用回線で直接接続する方式です。映像・音声データがインターネットを経由しないため、セキュリティ面で警察組織の要件を満たしやすい構成です。
LGWAN経由型: 自治体が運営する施設(足立区のろくまるのようなケース)では、自治体のLGWAN(総合行政ネットワーク)を経由して接続する構成が考えられます。LGWAN上で動作するシステムの選定が必要です。
オンプレミス型: サーバーを警察署内に設置し、外部のクラウドサービスを一切使わない構成です。ネットワーク的な制約が厳しい環境では、この方式が採用されるケースがあります。
いずれの構成でも、LAN接続と電源の確保ができれば交番側の設置工事は最小限に抑えられるシステムを選定することが実務上のポイントです。
機器の堅牢性と設置環境|屋外・長時間稼働を想定した設計
交番は屋外に面した場所に設置されているケースが多く、以下の環境条件を前提にした機器選定が必要です。
温度・湿度: 夏場の高温や冬場の低温、梅雨時期の高湿度に耐えられる機器であること。空調のない環境でも安定動作が求められます。
長時間連続稼働: 警察官不在の夜間帯こそビデオ通話が必要になるため、システムは連続運転に耐える必要があります。
停電対策: 停電時にも一定時間はビデオ通話が継続できるよう、UPS(無停電電源装置)との連携を考慮します。
物理的な耐久性: 不特定多数の住民が使用するため、受話器やボタンなどの操作部は一定の耐久性が求められます。
映像・音声品質|緊急時でも安定した通話を実現する要件
交番のビデオ通話では、来訪者が緊急事態で興奮している場合があり得ます。そのため、通話品質に関しては以下の点が選定基準になります。
ハンズフリー通話: 受話器を持つ余裕がない場合に備えて、スピーカーからの音声出力に対応していること。警視庁の地域安全センターではハンズフリー出力が標準で組み込まれています。
エコーキャンセラー: 交番は壁や窓に囲まれた狭い空間のため、音声の反響が発生しやすい環境です。エコーキャンセラーの性能がそのまま通話品質に直結します。
ノイズリダクション: 交番は道路に面していることが多く、車の走行音や周囲の騒音がマイクに入ります。ノイズリダクション機能の有無は実運用時の品質を大きく左右します。
映像の安定性: ネットワーク帯域が限られる環境でも映像が途切れず安定して表示されること。来訪者の表情が確認できることは、警察署側が状況を判断する上で重要な情報です。
警察官不在時と在席時の切り替え運用
交番のビデオ通話は「警察官がいないとき」に機能するものです。そのため、警察官が在席しているときはビデオ通話をオフにし、パトロールに出る際や夜間不在時にオンに切り替える運用が基本形になります。
警視庁の地域安全センターでは、警察官がパトロールに出る際にテレビ電話をセットし、帰署したら解除する運用を行っています。この「セット/解除」の操作を日常業務に組み込む仕組みの設計が必要です。
よくある質問(FAQ)
空き交番にビデオ通話を導入する場合、どのようなネットワーク環境が必要ですか?
交番側にはLAN接続と電源が確保できれば、大規模なネットワーク工事は不要です。警察署側のネットワーク構成に応じて、閉域網(VPN/専用回線)での接続、LGWAN経由の接続、オンプレミスサーバーを使った構成など、複数の選択肢があります。警察組織の閉域ネットワーク内で動作するシステムを選定することが前提です。
導入から運用開始までどのくらいの期間がかかりますか?
機器の選定からネットワーク構成の確認、設置工事、運用テストまでを含めると、規模にもよりますが数週間から数ヶ月程度が一般的な目安です。LAN接続と電源の確保ができれば交番側の設置自体は短期間で完了するため、期間の多くは警察署側のネットワーク確認と運用フローの策定に要します。
既存の交番設備にビデオ通話を後付けで導入できますか?
後付けでの導入は可能です。既存の交番にLAN回線と電源があれば、専用端末を設置するだけでビデオ通話環境を構築できます。交番の内装工事や大規模な設備変更は基本的に不要です。
空き交番・無人交番へのビデオ通話導入を検討されている方に向けて、遠隔窓口システムの製品パンフレットをご用意しています。パンフレットは以下からダウンロードいただけます。
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